12.入道雲【直優】
大雨が何日か続いて、今日は久しぶりに碧落一洗、見上げればどこまでも爽やかな青が広がっていた。爽やかな話だ。こんな日に、行進なんて授業が無ければ。雨上がり、特に大荒れの天気の翌日は気温が上がることが多いのだが、何故、こんなに気温の上がる昼間に行進をするのか。死人が出るような暑さだ、優馬も、珍しく額に汗が滲んでいた。……というか、元々汗をかきにくい体質なのだ、だから、新陳代謝が活発な方では無くて、じとりとした空気が自分を包み込んでいた。暑い、敵わない、だめだ、眩暈までしてきて。くらりと歪んだ世界の中で優馬の手をグッと引いた存在があった。親友の、直助である。直助は、軍学校で知り合った仲だ。どちらかといえば座学の方が得意な自分とは対照的に、彼はこういった実技の教科が得意で、お互いに一番を競って切磋琢磨し合える大切な友であった。友とはこういう時に助け合う。優馬もまた、直助が座学で赤点を取りそうな時には、夜通し一緒に勉強をしたりするのだ。持ちつ持たれつの関係であった。
俺は一生、その手の熱さを忘れる事はないだろう。
直助の存在を心の拠り所にして、優馬は再び足を進めた。
「あーーー、しんどっ!!」
「あはは、会議お疲れ様」
「優馬もな〜」
優馬と直助は、軍学校を卒業したのち、共に同じ部隊へと配属されていた。眞宮孝明大佐と言えば、軍内部でも評判の人である。出世が約束されている百戦錬磨のエリートで、彼の部隊も精鋭揃いなのだと聞いていた。その人が直々に、自分たちを自分の部隊へ入れたいと仰ってくださったとの事で、最初は二人とも天にも昇る気持ちであったのだが、配属されて数ヶ月、人気の隊長殿は、同じくらいに人からやっかみも受けている事に気付かされて、丁度、現実の厳しさを目の当たりにさせられているところであった。今日も、大佐のお供として神経をすり減らされるような軍議に出席をして、その帰り道である。甘味屋に寄ろうと言い出したのは直助の方であった。朝から暑い日だった、こんな日は氷菓子なんて美味しいんじゃ無いか、そう、思いながら優馬も後に続く。
優馬はそんな気分のままでアイスキャンデーを買って、直助が買っていたのは青いビー玉の入ったラムネだった。汗をかいているみたいに結露した水色の瓶が爽やかで、涼しげだ。
「あ〜、暑いっ」
「暑いねぇ。夏も本番だ」
「優馬はいつも涼しげだよ。汗かいてるとこなんて見たことないもん」
「俺だって、夏は暑いしバテるって」
そう、いつだかの夏。ナオに助けてもらった、あの軍学校の真夏の行進を思い出していた。
俺はあの日からずっと、ナオに何かあった時には、今度こそ俺が彼の手を引こうと決めていた。
親友で、戦友で、それよりももっと、大切な存在。
今回の軍議で、大佐の部隊が中心となって、北方へ進軍する事が決定された。初めての戦場、前戦に立つ事になったわけである、この、唯一無二の親友である男と共に。離れ離れにならなくて良かったのだ、優馬は、カランカランと音を鳴らす瓶の中のビー玉と、上下する日に焼けた喉元を眺めて、ふと、そんな事を考える。初陣が、一緒で良かった。だってナオと離れた場所にいて、ナオに何かあったらと考えると、恐ろしくて、きっと立ってはいられなかっただろうから。
「あっ!優馬、溶けちゃう溶けちゃう!」
「あ、あぁっ!」
溶けかけたオレンジ色のアイスキャンデーと、ラムネの瓶と、どこまでも広がる青い空と白い雲。
美しい夏の光景を、ずっと心に焼き付けておこうと決めていた。
【碧落】
あおぞら。転じて、遠い所。はて。

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