[chapter:1.きいろ(二岳)]
イヤホン、夢を見る、遮断機
寮から歩いて十分の場所に、そのスーパーはあった。
駅の近くに、所謂高級スーパーと呼ばれるようなお店もあるにはあるんだけど、住宅街のど真ん中にあるそのスーパーは肉も野菜も安くて、寮でみんなが食べるご飯を作る時なんかはこっちの方が重宝するのだ。だから自然と、料理をするメンバーにはばったり出会ってしまったりもする。今日だってほら。見覚えのある後ろ姿を見つけて、俺は「岳」とその名前を呼んだ。その人、岳が、はたと振り返ると、俺も耳に掛けていたイヤホンを外して駆け寄る。岳は俺に気付いてその顔色を緩ませて、甘い声色で「二葉」と、俺の名前を呼んだ。
「岳も買い物?」
「あぁ。仕事が早く終わったから夕飯作ろうかなって」
「俺もなんだぁ。……あっじゃあ、」
岳の手にしているカゴに入った、沢山のお肉を見つけて。
俺の頭にパッと閃いたアイディアは、きっと素晴らしいものだと思う。
「一緒に夕ごはん作らない?」
兄さんのリクエストで、肉を焼くことは決まっていて、後はお惣菜を何品か作ろうと思っていた。岳が何を作るのかはこのカゴの中身からはまだ推理出来なかったけれど、今日集まれる人たちが集まって、みんなでご飯を食べれたら楽しいんじゃないかって思って、思った、俺に、岳はふわりと微笑んで頷く。「良いよ」って。
「みんなで食べるなら鍋かなぁ」
「まだまだ夜は冷えるし、鍋、良いんじゃないか?」
そう、言って、岳はカゴの中に更に白菜を追加して、クスクスと楽しげに笑っていた。
スーパーからの帰り道を、並んで歩いていた。夕焼け小焼けの空の下、お互い両手に、エコバック、それからそれに入りきらなかった分のビニール袋もぶら下げて。買いすぎちゃったねって笑う。けれどこれだけの量を買っても、一晩で食べきってしまうのだから男十二人の食欲は凄まじい。鍋だけじゃきっと足りないから、お惣菜もいっぱい作ろう。お酒はグループラインで呼びかけたら、孝明さんとルカがそれぞれ買ってきてくれるらしい。それもすごい量になりそうだなって、岳と顔を見合わせて笑った。
岳と一緒だと、楽しい。寮までの帰り道、徒歩十分の道のりだって、こんなにも楽しい。
いつだって優しくて穏やかな、俺の、一応、コイビトなんだけど。お互いの気性もあって、中々そういう、色っぽい事にはならないのが、俺たちらしいというかなんというか。
だけどたまに夢を見るのだ、もう一歩だけ、先に進めたら良いなって。
そんな俺の下心を見透かしているのかどうなのか。差しかかった踏み切りがカンカンカンと鳴り響いて、遮断機が降りてくる。俺たちは揃って足を止めた。隣に並んだ整った横顔、岳はぼんやりと踏み切りを眺めていて、俺はそんな岳を見つめている。夕陽が射して綺麗だなって。俺の視線に気付いた岳が振り返ると、手にしていたビニール袋がカサリと音を鳴らした。
「なんだ?」
「手を繋げないなぁと、思いまして」
「えぇ?」
岳が困ったように、照れたように笑ったけれど、ほっぺたが赤いのは夕焼けの色なのか分からない。そんな事を思いながら俺は、両手の荷物を掲げて苦笑した。
「……帰ったら」
ガタンゴトンと電車が過ぎ去る音が聞こえて、だから、岳の声は聞き間違いなんじゃないかって思ったけど、そっぽを向いてしまった岳の顔が、耳まで赤かったから、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきて、俺もふるふる首を振る。
一歩先に、進みたいだなんて。思ってるの、俺だけじゃないよね?って。

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