[chapter:3.みずいろ(孝歩)]
清々しい青、雑音、横断歩道
どこまでも広がる、清々しい青を見上げていた。
今日の天気は朝からずっと快晴、まだ三月も上旬だと言うのに、お昼過ぎには五月並みの気温になるだろうと天気予報で言っていて、着るものに少し悩んだくらいだった。
孝明さんとのお仕事は、珍しい。ばずらじのユニットを超えた企画らしいんだけど、何故だか俺たちが選ばれて、ユニットも違う、そもそも畑違いなこの人と何かを一緒にやるのは本当に貴重だったから、今日はベッドの中で目を覚ましてから、ずっと楽しみにしていたのだ。
「……歩が燃えている」
なんて。雑音一つ無い、夜明けのベッドの中で俺を抱きしめて孝明さんが笑っていた。
ずっと今日を楽しみにしていたから、流石に今朝は俺の方が早起きだろうなって期待していたんだけど、やっぱり孝明さんの方が早起きだったらしく、俺がパチリと目を覚ましたら、ニコニコと微笑むその美しい顔が傍らにあった。「おはよう、歩」って、甘い声で俺を呼ぶ。
孝明さんとは「そういう事」をする関係だった。そういう事をする関係、ではあるけれど、俺たちは恋人同士ではない。自由主義なこの人と、人に面倒をかける事が好きじゃない俺との関係はびっくりするほど利害が一致していて、だから自然と寄り添い合った。孝明さんの側は居心地が良い。
「せっかくなので、今日は一緒に現場入りしませんか?」
だから朝食の席で、孝明さんが作ってくれた朝ご飯を食べながらそう言った俺に、孝明さんは僅かばかり驚いたのだろう、目を丸くして、箸を止めた。
「ほんとに珍しいな」
「ダメ、ですか?」
何かおかしな事を言い出しただろうか、と、シュンとしてしまった俺にはふわりと笑って、それから味噌汁を飲むのを再開させる。
「ダメなんかじゃ無いよ。エントランスで待ち合わせしようか。着替えておいで?」
「……はい!!」
俺はこの、甘い笑顔が大好きだった。
いや、もっと単純に、この人の顔や、醸し出す大人な雰囲気が好きだった。
それからほんの少しだけ、開いている距離感も心地が良い。
孝明さんは俺に干渉してこない。だから俺も、この人に依存する事も深く立ち入る事も無い。それがベストな距離感で、居心地が良いと思っていたから。隣を歩いていてもそう、もちろん、真っ昼間だから指先を絡め合わせる事なんて無いのだけれど、別に恋人同士などでは無いのだからそんな事する必要も無い。二人の間に少しだけ空いた隙間が、この関係を端的に現してくれている。これ以上、近付く事も無いのだと。
「歩」
と、いつもの甘い声が俺を呼んで、クイっと腕を引かれる。
パッと気付くと目の前は横断歩道で、青信号が点滅していて、雑踏、行き交う人々の中で、孝明さんは足を止めて、俺を引き留めたのだった。
「あ、……ありがとう、ございます……」
「どーいたしまして」
この人は、きっと、多分、何にも思っていないのだろうけど。クイっと引かれた腕が、そして一瞬で離れて行ってしまったそれが、俺の思った以上に熱を含んでいて、昨夜の行為を思い出してしまうのだからいけない。俺たちは別にそういう関係では無くて、だから、甘い妄想も、俺を甘やかすその声も、仕草も、夜の間だけで充分だと思っていたのに。
──あなたの事、もっと欲しい、だなんて、思ってしまっている俺がいる。

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