ワードパレット『color』 - 8/13

[chapter:7.しろいろ(翔優)]
爪、緩める、猫耳

優馬の指先は美しい。まるで楽器を弾く人のそれのように、丁寧に整えられている。
もっともそれは自然が生す美しさらしく、優馬自身もピアノを弾くとはいえそちらは完全なる趣味であって、「綺麗な手だね」って褒めたら、「何も、特別な事はしていませんよ?」と柔らかく微笑まれてしまった。真っ白で繊細な指先にまぁるく形良く整えられた爪が乗っている、特別な事はしていない、とはいえ人並みに爪も切るし、年頃の男の子よりは小まめにハンドクリームを塗っているのも知っていて、じゃあ、と僕が優馬に贈ったのが小さなプレゼントだった。シンプルな白い箱に白いリボンの掛けられたそのプレゼントボックスを眺めて、優馬は目を丸くしていた。
「俺の誕生日は、八月のはずですが」
「ふふ……、そういうんじゃ無くてね。なんだろう、ホワイトデー?」
「そう言って、バレンタインにもお菓子くれたじゃないですか」
「そうだね、それで、僕はそのお返しもちゃぁんと貰っている」
小さな箱を見下ろしてきょとんとしている優馬と、並んでソファに座って優馬に戯れつく僕。まるで猫のようだと思いながら、膝の上にはロックも乗せて。ゆったりとその猫耳を撫で付けていると、ロックは気持ち良さそうにゴロゴロしている。ニコニコと笑みの止まらない僕に、優馬はようやく観念したのか、ふぅ、とひと息吐き出して、繊細な指先で小箱のリボンを解いて、包装が、丁寧にはがされていく。
「こ、れは……」
「ふふふ、本当にささやかなプレゼントなんだけど、貰ってくれるかなぁ?」
中身は、ハンドクリームとネイルオイル、それからネイルケアのグッズ一揃えである。僕が使っているものとお揃いのそれは、ブランドのお高いものでは無いのだけれど、知る人ぞ知る、上質な作りが自慢の逸品。優馬は箱の中身を見つめて、更に驚いた様子だった。
「……嬉しくなかったかな?」
だからほんのちょっと不安になってそう覗き込んだ僕には、ブンブンと大袈裟なくらいに首を左右に振って、否定の意を見せてくる。喜んで、くれている……とは思うのだけれど、顔色を耳まで真っ赤にしている。この優馬の反応が不思議で、どうしたものかと思っていたのだ。
「翔さん……あの、おれ、」
「ん?」
「もしかしてあなたに、傷、なんて……」
「…………ん?」
真っ赤になったり真っ青になったりと忙しい顔である。パッと顔を上げて、僕の腕を掴んで、今度は真っ青な顔色をした優馬は、その蒼白の表情のままで、爆弾発言を落とす。
「その……、してる時、俺、引っ掻いちゃったりしてたのかなって……」
「え……、えぇ?!」
「だったら!そんな、翔さんの綺麗な肌に、なんて取り返しのつかない事を!!」
ここで僕も、優馬の言わんとしている事を理解して、その顔色が真っ青な事も理解して、思わずプッと吹き出して笑ってしまったのである。あんまりにも、君が必死だったから。
「翔さん!」
「ごめんごめん……だって、」
だって、これは別に、君に爪を切って欲しいとかそういう事では無くて、僕はただ、素のままでも綺麗な君の手が、ケアする事によってもっと艶々になったら良いなって思っただけで。だから意味を勘違いしてしまっている優馬が可笑しくて、可愛くて、仕方がない。
「君の手はもう充分に綺麗だけどね」
「……翔、さ、」
「ただ僕に触れる君の手が、今よりもっとすべすべだったら気持ち良いだろうなって思っただけだよ」
ぎゅっと抱き寄せると、ほら、今度は赤くなった。可愛い可愛い、僕だけの優馬。
優馬は、よく整った綺麗なお顔の、そこだけ紅潮した頬っぺたを緩めると、僕の抱擁を甘んじて受けて、それから、控えめに腕が背中へと回される。
「爪のケアを教えてあげようね」

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