もうずっと、なんなら1ヶ月近く前から、俺はカレンダーと睨めっこをしていた。
10月ももうすぐ終わりそうだ。今年の秋は変な天候で、気圧のせいもあるんだろうけど体調が安定しなくて、無理しないでくださいねとマネージャーに気を使ってもらって仕事もセーブしていた。そのおかげなのか、ここまで熱を出すことも寝込むこともなく過ごしてきたけれど。
今俺は、全く別の事で頭を抱えていた。
10月が終わったら、……まぁ当たり前だが11月がやってくる。11月、寝室に掛けられたカレンダーのその一番最初の日に、印を付けたのはもう半年以上前の事だった。BDとだけ記されたなんの飾り気も無いその印は、俺にだけ分かれば良いと最初はそう思っていたのだが、何というか、うん、印なんて付けなくても良かったなと、今なら思うわけだ。元々人の誕生日を覚えるのが苦手な俺でも、流石に恋人の誕生日はずっと覚えていた。半年以上前、付き合い始めた頃に誕生日を聞いてからずっと。覚えやすい日ってのももちろんあったけれど、忘れた事なんて無かった。頭を抱えるようになったのは10月に入ってからだ。ジュエリーケースに大切にしまわれた黒猫のペンダントを取り出して眺めて、俺は、深い、ふかーいため息を吐き出した。
「それで、ふーん……相談かぁ……」
「べ、別に。そういうんじゃ無いんだ、頼むからニヤニヤしないでくれ……」
「歩クンがねぇ〜……ふーん、ふーん……」
「だから誰かに相談するのは気が乗らなかったんだ」
「ほら!やっぱり相談じゃん!!俺に任せてよ!!ね、ゆーまくん♡」
10月のとある日に、この二人を部屋に呼び出したのは俺だった。リビングに招いて、昨日買ってきたばかりのとっておきのコーヒーを入れる。そこに、ルカは牛乳をドバドバ入れていて、対照的に優馬は控えめにお砂糖をひとさじ入れてかき混ぜながら、それぞれニコニコと意味ありげな視線を俺に向けていた。
「ナオへの、プレゼント、ですよね。俺は直接本人に聞いちゃいましたけど」
「そうなのか?」
「えぇ。一緒に服を買いに行く約束をしてます。俺コーディネートの服が欲しいって言われて」
そう、来る11月1日、その日に、直助の誕生日を控えていた。
恋人……と呼ぶのも気恥ずかしいのだが、恋人と過ごす、恋人の初めての誕生日だった。だから俺はずっとその日に向けて、カレンダーと睨めっこをしている。目下の悩みはプレゼントをどうするかというところで、参考にするため、直助と仲の良いこの二人に声を掛けたわけなのだが。
「なるほど、……服……」
「俺も本人に聞いちゃった〜。ゲームのソフト、あげる予定だよ」
「ゲーム……」
「そんなに頭抱えなくても、ナオくんは歩くんが選んだプレゼントだったら何でも喜んでくれると思うよ?」
直接本人に聞けるなら最初からそうしていたし、そもそも俺も、友人やユニットのメンバーに贈る誕生日プレゼントなんかは、本人に聞いて相手が欲しいものを贈るのが常だったのだ。けれども今回は恋人相手の初めての誕生日プレゼント。そうするわけにもいかなくて、うーんうーんと頭を抱えて唸ってしまった俺に、ルカの優しい声色が頭上に響く。
ありがたいお言葉ではあるが、今の俺にはなんの参考にもならないのだった。
「…………だから悩んでいるんだ……」
「重症だなぁ」
「ですね」
仲睦まじく顔を見合わせて笑う、二人が羨ましくていっそ恨めしい。
夕飯を終えて、リラックスしている二人を捕まえたのだ、時間も時間だったから寛ぎモードなのは分かる。分かるがしかし。二人の格好を見てこれは突っ込んでやるべきなのか否かを俺はずっと迷っていた。ふわふわもこもこのルームウェアは、寒い季節になるとルカが着ているのをよく見かけていた。しかし今は優馬も、その色違いを着ていて……。そういえばこれ、ルカと一緒に買いに行ったものなのでは無いだろうかと夏ぐらいの記憶を呼び起こす。これも、誕生日プレゼント、だけど。
「……そのお揃い、可愛いな……」
「うっふふ〜〜〜!!分かる?!分かっちゃった?!ありがとー!!」
「る、ルカさん……」
むぎゅーっとふわふわの優馬に抱きつくルカと、満更でもない表情の優馬を横目に、まぁ俺の前だから別に気にしないのだろうけど、少しは慎めと思わないわけでもない。思わない、わけでもない、けど、羨ましいと思ってしまう俺は、ルカの言う通りにやっぱり重症なのかもしれなかった。
「歩くんもお揃いしたら?」
「……いや、それはちょっと……」

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