HAPPY HAPPY BIRTHDAY‼︎【2020誕生日SSまとめ】 - 6/12

 

その日は三月最後の日曜日だというのに朝から冷たい雨が降っていて、お昼過ぎには都心部でも雪になるだろうと言われているくらいの肌寒い一日だった。仕事が休みの日も諸先輩方の影響を受けて早朝ランニングを入れている俺だったけれど、流石に今日はこの寒さと大雨で諦めたのだ。せっかくのオフなのに雨とはついていない、と、部屋の窓の外に広がるどん曇りの空を呪った。
お天気が悪い、けど、それも悪いことばかりでは無い。
こういう寒い日には、『猫』が気まぐれに俺の部屋を訪れるのだ。
温かな布団を少しだけ捲って身を起こすと、傍らで眠る存在が身を捩って寒さを訴えている。この冬から一緒のベッドで眠ることが増えてきた気位の高そうな猫さんは、細い身体をきゅっと小さくして、ベッドの中で「さむい」と一言だけ呟いて、そろそろ起床しようかと思っていた俺を抱き寄せて、温かなお布団の世界へと引き戻した。
「歩さ〜ん、離してください、俺、朝ごはんの支度をするんで」
「……いらない、直助もオフなんだろ?このまま昼まで眠ってても構わない……と、俺は思う」
「……歩さんって生真面目そうに見えて全然そうじゃないですよね」
「どういう意味だ」
俺を抱きしめて離そうとしない細い身体。それが、一糸纏わぬあられもない姿である事に気付いて、俺はギョッとしたわけであるが、下着一枚だけ身につけているだけの自分とそう大差は無い事に気付く。このまま俺がベッドを抜け出してしまえば、寒がりの歩さんがひどく寒い思いをしてしまう事は目に見えていたから、大人しくその拘束に身を委ねているのだ。
昨日は日付が変わる前くらいの時間にこの部屋を訪れたこの人に捕まってベッドに引き摺り込まれ、激しく求められたのを思い出す。いつもは控えめで楚々としたこの人にしては珍しい、と思ったものの、なんとなく酒に酔っていたのはすぐに気付いたから、もしかしたらこの部屋に来る前にどこかで飲んでいたのかもしれない。それなのにちゃんと日付けが変わる前に俺のところに来てくれた事が嬉しくて、だからついつい俺も、俺を求めるこの人に乗っかってしまったというわけだ。
とりわけ今日は特別な日であった。
歩さんの、二十五回目のお誕生日。普段は歳の差なんて全然気にしないんだけど、やっぱりこういう日にはその六年分の生きてきた時間の差を感じてしまう。俺よりもずっと大人で何枚も上手なその人の美しい笑顔を腰の上に抱いて、早く大人になりたい、そんなことを思ってしまう。
あなたの事を辛い事や悲しい事から、全部守ってあげられるくらいの強い大人になりたい。
抱きしめられて甘やかな拘束をされている腕から抜け出して、俺はベッドサイドのテーブルの上を漁る。そういえば昨夜渡し忘れていたものがあるのだ。むにゃむにゃともう一度夢の世界へ落ちていってしまいそうな歩さんには少しだけ待っててもらって、俺はスカイブルーの包装を丁寧に開ける。
「歩さん、お誕生日おめでとうございます」
「……そんな、おまえからのプレゼントは昨日の夜いっぱい貰っている」
「そういうんじゃなくて、ちゃんと、形に残るものです!」
「えぇ?」
クスクスと笑う美しい横顔。抱きしめていた俺が居なくなって行き場を無くした細くて白い腕がベッドから伸びて代わりに枕を抱いていた。俺は箱を開けて取り出したアクセサリーを、歩さんのがら空きの首元に装着する。一糸纏わぬ姿にネックレスだけ、というのはものすごくエッチだ。そんな青少年らしい感想を胸に閉じ込めて、俺はその、眠たそうな唇にキスを落とす。
「おめでとうございます!」
「ネックレス?……あっ、猫がついてる」
「最初はチョーカーとかも考えたんですけど、ネックレスだったら着けてても目立たないかなって」
「可愛い……、黒猫だ」
「ですですっ」
喜んで、もらえたのか?この人の感情の起伏は、わかりにくいところがあって、それでも微笑を浮かべて、指先でそっと猫の飾りに触れる、その動作が上品で綺麗で、俺はついつい見惚れてしまった。気に入ってくれているみたいではあるけれど……そんな事を考えながら歩さんを見下ろしていると、猫に触れていた指先で俺の手首を捕まえられる。
「ありがとう直助、最高の誕生日だ」
俺の腕を引く、歩さんがにっこりとそれはもう綺麗に笑って、お返しだと言わんばかりにチュッと軽いキスを唇で受け止める。冷たい朝によく似合う、体温の低いキス。もうちょっとだけ、温めてあげたいなぁ、なんて、思うけれど。
「朝ごはん、岳さん直伝のぜんざい作りますけど」
「えっ」
「良い子で待ってられますか?」
ぜんざい、岳さんに作り方を教えてもらって、これなら俺でも作れそうと思って昨日スーパーで小豆缶とおもちを買っていた。今日は寒い日だし、温かいぜんざいが美味しいんじゃないかなぁって思い立った俺のアイディアは、きっと歩さんも喜んでくれるはず。
クスリと笑った視線の先には、あきらかにご機嫌そうな顔の歩さんがいて、やっぱりこの人には食べ物のプレゼントが一番効果的なんじゃ無いかって思ってしまう、俺なのであった。

 

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