目の前に並べられたあんみつの乗った盆は、本日の取引き材料であった。フルーツに、抹茶アイス、クリーム、餡子もたっぷりで美味しそう。お口直しの緑茶まで付いて、ここの甘味屋のあんみつが食いたいと言った数ヶ月前の俺の言葉をよく覚えていたものだと感心してしまう。ルカは、自分の目の前には巨大な宇治金時のかき氷を置いて、「美味しそう〜!」とキラキラ目を輝かせていた。
「いただきます」
「いっただっきまーーーす!!」
パチン、と手を合わせて、そんな声が重なった。茹だるような夏の午後。その年の八月はとにかく毎日毎日蒸し暑くって、ただそこにいるだけで溶けてしまいそうなほどだった。
「買い物に付き合ってほしい」と言い出したのはルカの方だ。せっかくのオフ、先述の通り毎日暑く、休みの日くらい涼しい屋内でゆっくり本でも読もうかなと思っていたのだ。けれども目的地の商業施設の中に好きな甘味屋がある事に気付いて、俺は、重い腰を上げた。別にルカと遊びに行くのが嫌なわけじゃない、むしろ楽しみなくらいだったんだけど、何せこの暑さだ。駅までの道すがらだけでバテそうだった俺にハンディの扇風機を貸してくれたり出来るだけ地下を通る道を探してくれたり。至れり尽くせりのルカ様のおかげで、無事に店までたどり着いた。店内マップを眺めながら何を買うのだと聞いたら、珍しくしおらしい様子で頬を染めて「…………誕生日プレゼント」だなんて言い出すものだから俺も面食らってしまった。今月末。そういえば。直助も同じように騒いでいたのを思い出す。「プレゼント!!どーしよー!!」だなんて言って、雑誌をめくってみたり、スマホを弄って探してみたり。流石に親友同士のそっちの事情には口を挟んでいなかったけれど、俺からも何か、ささやかだけど何か、贈らねばな、と思っていたところだった。
今月末。具体的には八月の二十七日。来たる、優馬のお誕生日に向けて、ルカと直助、事情は違えど各々同じように、プレゼントに頭を悩ませていたというわけだ。
俺からのプレゼントは早々に決めてしまった。ハンドクリームとボディクリームだ。前に、優馬が少女趣味なハンドクリームを使っているのを目にしていて、それはそれで可愛いと思っていたのだが、せっかくならば、と敢えてルカの好きな香りを選んでおいた。男性にも女性にもウケの良さそうなユニセックスな香りで、テクスチャの伸びも良く、使い心地の良い上質なものだった。「ベッドで付けたらルカが喜ぶぞ?」なんて言ったらあの可愛らしい王子様はどんな顔をするのだろう。これは、ルカにも内緒で購入して、ラッピングにはネイビーのリボンを掛けてもらった。
ルカは、これも相当迷うであろう事も覚悟して今日一日付き合うつもりだったのだが、プレゼントはあっさり決まってしまった。予め目星は付けて来たらしく、目的の店までやってくると女性客しかいないようなキラキラとした華やかな店内で、目当ての品へと一直線であった。
両手で抱えるくらいの大きな、ピンク色のリボンを掛けられたプレゼントボックスは、巨大な袋に入れられて今はルカの傍らに置かれていた。一見すると中身が謎なのであるが、ブランド名を見れば気付く人は気付くのだろう。俺はセンスが良いと思うし、きっと優馬だったらルカからのプレゼントならなんでも喜びそうだから、これもきっと、喜んでくれると思う。
「美味しい〜!冷た〜い!幸せ〜〜〜!!」
「良かったな、目当てのものが買えて」
「歩くんも付き合ってくれてありがとーー!!」
「俺は何もしていない。結局あんみつを食べに来ただけのように思える……」
「良いじゃーん!俺は歩くんと一緒にお出掛けしたかったの!」
ルカは、そう言って。満面の笑みで、スプーンに掬った宇治金時を俺に差し出してくる。
「アーン」なんて。個室でもないのに、と咎めた俺の視線なんか気にしていないみたいにしているから、仕方が無いなぁと俺は黙って口を開けるわけだ。ルカには、ほとほと甘い自覚はあった。
舌の上に乗せられた氷は冷たくて、頭がキーンとする。
「俺もバニラアイス食べたい」
「…………たべるか?」
「良いのっ?!」
じゃあ、と、目を閉じて、可愛らしく「アーン」と開いた口の中に、躊躇いなくバニラアイスを差し入れてしまうのは、もう、ルカのペースに慣らされているとしか思えなくて。その行為を行った俺は、バニラアイスを美味しそうに咀嚼するルカを見つめて、自分に呆れてしまうわけである。
「すっかりお前のペースだな」
「何が?」
「……いや、なんでもない」
クスクスと笑った俺を見つけて、ルカもニンマリ微笑んで、傍らの袋を愛おしそうに撫で付ける。
「優馬、喜んでくれるといいな」
「…………………うん」
俺の言葉には、顔を真っ赤に染め上げる。
そんなところも可愛い、と思ってしまう。

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