「じゃあ、とっても贅沢なお願いをしても良いですか?」
優馬くんの腕の中は俺の特等席だった。いつも、足の間に挟まってネイルをしたりスキンケアをしたりしている。そんな至福の時間の中で、そこから見上げる淡いブルーグレーの瞳はいつだって煌めいて、その真ん中に映っているのが俺だけっていう、それは満ち足りた、幸福みたいなもの。
一ヶ月ほど前の事だ。「誕生日プレゼント、何が欲しい?」そう、ダイレクトに聞いた俺に、優馬くんは目を丸くして、しばし悩むような素振りを見せていた。数秒、悩んでいたのだろう、間を置いて、「あっ」と、何か良い案でも思いついたようにニコニコとご機嫌そうに笑う綺麗な顔を見上げて、俺は思わずばっと、身を乗り出していた。
優馬くんへのプレゼント、実は悩みどころだったのだ。普段なら、みんなの誕生日にはサプライズもかねて、その人に一番相応しいものをーー!……なんて思っている俺だけど、服もアクセも、その気になればなんでも似合ってしまう優馬くんだからこそ、何か特別なものをあげたくて、でもがっかりはさせたくなくて、珍しく本人に直接聞いてみたってわけ。しかも、二十歳っていう大人への大事な区切りの意味合いも持つ特別なお誕生日だ。優馬くん自身が一番欲しいものだったら間違いないかなって、思ったんだけど、思いがけない答えが返ってきて、贅沢なお願いってなんだろうって、首を傾げた俺の、無防備な唇を、チュっと軽く奪われてしまう。
「ルカさんの、時間を俺にください」
「え?」
「一時間でも、三十分でも良い。二人きりで、過ごす時間をくれませんか?」
まったく、キスだけで真っ赤になっていたウブな王子様はどこに行ってしまったのだ。
キラキラと輝くお星様みたいな無垢な笑顔を浮かべてそんな事を言う優馬くんを見上げて、俺はその瞬間に頭の中のスケジュール帳を慌ただしく捲っていた。
お誕生日、当日。当日というか前日の真夜中だ。
当日の夜はユニットのメンバーとお祝いする、というのがここの暗黙のルールだったから、俺が狙ったのは前の晩。誕生日を迎える深夜零時を一緒にお祝い出来るように、予め夕方で仕事が終わるようにスケジュールを調整していた。飲み会も断って、七時には帰宅。ちゃんとお風呂にも入って、可愛いルームウェアも着て来た。部屋のインターフォンを押す指がドキドキして、誰かに見つかっちゃわないかなって思ったけど、VAZZY階はみんなお仕事なのか物凄く静かだった。ピンポンの音に、程なくしてドアが開いて、こちらもお風呂上がりみたい、髪の毛が少し湿っていて、キラキラ輝いている優馬くんが顔を出す。
「ルカさん!お待ちしておりました!」
「こんばんは!」
プレゼントのおっきな袋を持って、そそくさと中に入れてもらう。
結局、優馬くんの欲しいものは分からないまま、プレゼントは別に購入したわけだけど、これで喜んでもらえるかどうかは謎だ。ケーキとか、あとはせっかくハタチになるんだからお酒なんかも……って考えたんだけど、それは明日、VAZZYのみんながいっぱい用意してくれるだろうなって思ったから、俺は遠慮させてもらう。本当に、身一つ、みたいな感じで来ちゃったけど良かったのだろうか?優馬くんに促されてリビングに通されて、ソファの脇にプレゼントの入った袋を置くと、俺は俺の特等席、その腕の中に飛び込む。
「おかえりなさい、ルカさん」
「ふふふ、ただいま!」
ぎゅっと力強く抱きしめられる。その腕の温もりにうっとり身を委ねていると、クン、と鼻先に甘酸っぱいシトラスの香りが香った気がした。俺の好きな柑橘系の匂いだってクンクンしていると、優馬くんがくすぐったそうに笑う。
「……わかります?歩さんから貰ったプレゼントなんですけど」
「なんかすごい……、良い匂いがする。香水?」
「ボディクリームです。ルカさんの好きな香りだから付けてみろって、言われて……」
「あ、歩くん……」
友人の、してやったりな笑顔を思い浮かべて、俺は苦笑してしまった。
優馬くん、本当に良い香り。大好きな腕に抱かれて、好きな香りが漂って、ふわ〜っと気持ち良い。主役は優馬くんなのに、これじゃあ俺の方が幸せな気分になってしまって申し訳無いなーって思って、俺は少し早いけど、優馬くんにプレゼントを手渡す。
「じゃあ、これは俺から」
「わぁ、大きい!すごいな、開けてみて良いですか?」
「どうぞ?」
一昨年、出会って初めてのお誕生日はお祝いする事が出来なくて悔やまれたんだけど、去年、付き合い始めた君に初めてあげたのは、一緒に時を刻みたいって意味合いも込めて、カジュアルな腕時計。そして三回目の誕生日の今日。今年のプレゼントは、悩んで悩んで、悩んだ挙句に決めた。
「…………ルームウェア?」
「えへへ……、おそろい。だめ?」
ふわふわ、もこもこのルームウェア。今の時期はまだまだ暑くて着れないけど、これから寒い時期にかけて、お揃いで着れたら嬉しいなって、思って。俺のと色違い。ってか、元々持ってたルームウェアがそのブランドのレディースのものだったんだけど、同じブランドでメンズの商品も展開されていると知ってこれだ!って思ったのだ。お揃いのTシャツとかも、考えて、ペアルックも色々あるけど、お部屋の中だったら良いかなって思って、買ってしまった。反応を伺うように覗き込んだ優馬くんの顔が、笑顔を通り越して、いっそ泣き出しそうなくらいにくしゃくしゃに綻んでいた。
「だめじゃ、ないです……すみません、すごく、嬉しくて……」
「わーーー、泣かないで!!」
「これ着てる、ルカさん、すごく抱き心地が良くて、気持ち良いんですよ?」
「俺も、この手触りが好きで、優馬くんが着てくれたらいっぱいもふもふ出来るかなって……」
「あはは、じゃあ着ましょうか?クーラーガンガンに効かせて」
「着てくれるの?!」
嬉しくて思わずそう言った俺に、優馬くんがもこもこを抱きしめてふわりと微笑む。
「はい、それで、いっぱい可愛がってください!」
そんな、事を、言われてしまったら、いっぱいいっぱい可愛がってあげたくなってしまうだろう。いっぱいぎゅーっとして、それで、気の済むまでもふもふするのだ。でもベッドで愛でるにはこれは、やっぱり暑いんじゃないかって思いながら、俺はプレゼントごと、優馬くんを抱きしめる。
もこもこの感触が頬に伝わって、気持ち良い。
こんな真夏に、早く冬が来ないかな、なんて思ったりして。

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