[鳥〜half〜]
「あっづい…………」
ばちらがパタパタと着ていたTシャツを仰いで、俺はどこまでも晴れた真っ青な青空を仰いだ。ジージーと蝉が鳴く声が聞こえて、俺たちはさっき寒いくらいに涼しくクーラーの効いたコンビニで買ってきたパピコを半分こしてちゅーちゅー吸っている。
公園でサッカーをしたところだった。
夏休み、蜂楽と遊ぶ約束をしていて、じゃあ俺の地元来る?と誘ったのは一週間前のことである。どうせこの時期都心はどこも混んでいるという俺の憶測だったがあながち間違いでは無いだろう。実際、都内に程近い郊外のベッドタウンであるうちの地元は、人なんて消えてしまったかのようにひっそりとしていた。
まぁ、暑いせいもあるんだろうけどな。
こうしてサッカーの為に訪れた公園も、子供一人いやしない。(いや、近所の子に聞いたら昼間は涼しい屋内で遊んで、涼しくなった夕方から遊びに出るらしい。そんなクソ暑い真っ昼間っからサッカーをしている俺たちって一体……)熱中症の防止に一緒に買った冷たいスポーツドリンクも流し込んで、俺は蜂楽を振り返った。
「なぁ、もう一戦してく?」
俺としては「帰ろう」という言葉を期待したんだけど、蜂楽の目はぽやんと木の上の方を眺めていた。ありゃりゃ、熱中症で可笑しくなっちゃった?ってドキドキしながら、何を見ているのだと問う。
「おーい、何見てんの?」
「……潔みて、あちぃから鳥さんも涼んでる」
「へ?鳥?」
蜂楽の指さす先を見やると、成る程、いつもは地面に降り立って餌を求めてくる鳩さんが涼を求めて木の木陰で休んでいた。鳩ですら涼んでんのかよと思わないでも無かったけれど、蜂楽さんはそんな鳩さんを見上げてぽつりとこんな事を漏らした。
「潔はさ、鳥になりたいって思った事はない?」
「はぁ、えっ?鳥ぃ?」
「俺、長期休暇になるとドリブルでどこまで行けるか挑戦するって言ったじゃん」
「あーうん」
それは、蜂楽から聞いた楽しげな話だった。最長記録は福島だと聞いて食事や睡眠はどうしてるのだと思わないでも無かったけれど、だからその時は「俺も連れってってくれ」って言って、「いーよ、パスサッカーも楽しそう」って蜂楽は笑っていた。
その話を聞いて、どこと鳥が繋がるのだと、思った俺は、首を傾げて蜂楽を見た。
「壁とか、行き止まりがあると、まぁ引き返すんだけど、そんな時にぼんやり空を見上げるんだ。そしたら鳥さんが、俺を見下ろして飛んでいて」
「あぁ鳥だったら、こんな壁飛び越えてどこまでも行けるのになって」
蜂楽はごくごくとスポーツドリンクを飲み干して、俺たちの間に置かれたボールを奪う。
「……俺はヤダけどなぁ。蜂楽がどっかに行っちゃうの」
「あぁ、そー?そういう?」
「それに鳥になったら、サッカー出来ねぇじゃん」
「まあ、それはそう……よっと」
空のペットボトルとパピコをビニール袋に放って、俺から奪ったボールを足先でトラップをしてそのボールを俺にパスしてくるから、俺の方も蜂楽に応じた。
「もう一戦?」
「うん、俺は何回でも良いけどね〜」
「あはは、日が暮れちまう」
結局俺たちは最後にひと勝負して、汗だくになって揃って俺んちに帰った。
母さんは夕飯の買い物に行ってるのか留守で、だから冷蔵庫の冷えた麦茶を飲んで、順番にシャワーを浴びる事にした。「一緒に入る?」ってふざけて笑った蜂楽を風呂場に押し込んで俺は部屋に戻って着替えを用意していた。蜂楽とは身長も体型も似ているから、俺の服で充分だろうなって思って、Tシャツとハーパンを引っ張り出して、脱衣場から風呂の中でシャワーを浴びているらしい蜂楽に声を掛ける。
「タオルと着替え置いて行くな〜」
「うぃーー」
いちおう、蜂楽とは友達以上の「そーいう関係」である。
俺たちを知る共通の友人が言うには、「嘘だろ?!」と言われて、「そんな色気のある空気ねえじゃん?!」とまで言われたけど、キスだって、それ以上の事だってしてる。
だから一緒に風呂なんか入ったら流石にまずくね?って思うわけで。
まぁいちおう、ここ俺んちだし?
そうして煩悩を払うようにリビングでテレビを見ていると、風呂場の方から何やらバタバタと足音が聞こえて、すっぽんぽんにタオルを一枚だけ巻いた蜂楽が慌しく顔を出した。
いやいやいや、待って、待て蜂楽、今俺が、煩悩を払った意味は?!
「はーーーー?!お前人んちだぞ!服を着ろ!!」
タオルはせめてもの気遣いなのだろう、なんの防具にもなってねぇよって思うけど。
それでも蜂楽はタオル一枚のすっぽんぽんで俺の肩をガシッと掴むと、真剣な表情をして訴えかけて来るのだ。
「潔!潔おれ!!俺は!!」
「な、なんだよ」
「おまえは俺を置いて、一人で飛んでいくなよ?」
「は?」
さっきの鳥の話に繋がっているのだろう。蜂楽はそりゃもう深刻そうにそんな事を訴えかけて来ると、チュッと、誰もいない人んちのリビングで、俺の唇を颯爽と奪って行く。
「お前さぁ!!」
なんで人が我慢してんのに、そんなに容易くキスして行くんだよ!
どっかに行っちゃうって心配してんのは俺の方だって言うのに。どこまでも一人で飛んで行ってしまいそうなのは蜂楽の方だろって。
お前はそうやって、笑顔で俺を置いてくんだろって。
「いいか!!まず服を着ろ!それで俺が戻って来るまでテレビでも見てろ!」
俺は脱衣場から持ってきた服を蜂楽に押し付けると、逃げるように風呂場に駆け込む。
「う〜……、勃った……」
なんとか、これを静めてから風呂場を後にしなければならなくて。
これはそんな思春期真っ只中のお話。

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